脱ステロイド治療と口唇ヘルペスの深い関係
口唇ヘルペス。普通は口の横に水ぶくれが数個出るくらいですが、顔全体に何百個も水ぶくれが出る場合があります。
病名は「カポジ水痘様発疹症」といいます。こんなに出ると入院をしてウイルスを殺す点滴が必要です。
(実際の写真はこの病名で画像検索するとたくさん出てきます。見るとひどさが分かると思います)
さて、普通の口唇ヘルペスとカポジ、原因は同じ単純ヘルペスウイルスですが、どうしてこうも症状が違うのでしょう。
答えは肌が荒れているかどうかで違ってくるのです。
健康な皮ふには「バリアー機能」といって、細菌やウイルスをはね返す力が備わっているため口唇ヘルペス程度ですみます。一方、アトピー性皮膚炎できちんと治療をせずに荒れた皮ふを放置すると「バリアー機能」が弱まりウイルスが一気に顔全体に広がるカポジになります。
カポジはそれ程多い病気ではありませんが、実はこの病気の人がたくさん入院していた時期がありました。
それは私が皮膚科医になって数年目のころ、1990年代です。この頃は久米宏のニュースステーションで、「ステロイドは恐い薬で最後の最後に使う薬」というような学問的根拠のない誤った内容の報道があり、ステロイドを使わないで治療して欲しいという「脱ステロイド治療」希望のアトピーの人がたくさんいた時期です。
教科書を見ると、ステロイドの副作用には「感染症の発生や悪化(もちろんウイルスも感染症です)」と書いてありますが、アトピーの場合はステロイドで荒れた皮ふを治した方が「バリアー機能」が復活して感染症にかからなくなります。
必要な時にステロイドを使わないと、逆にカポジのような病気になるデメリットがあることを忘れないで欲しいですね。